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2021.03.26

【フェンシング】三宅諒選手(ロンドンオリンピック 男子フェンシング団体銀メダリスト)インタビュー【後編】

【フェンシング】三宅諒選手(ロンドンオリンピック 男子フェンシング団体銀メダリスト)インタビュー【後編】

フェンシング・ロンドンオリンピック団体銀メダリスト・三宅諒選手のジュニア時代に迫るインタビュー・後編をお届けします。

後編では、ジュニアアスリートからの質問への回答や、テクニックなどについて語っていただきました。

 
【三宅諒選手プロフィール】

1990年生まれ。178cm、72kg。千葉県市川市出身。ロンドンオリンピック男子団体銀メダリスト、2014年アジア大会男子団体金メダリスト。

保育園の時にフェンシングを始め、競技経験のない父が独自に研究した指導法により指導を受け、小学校6年の時には全国大会で優勝するまで上達する。

2007年、慶應義塾高等学校在学中に17歳以下の世界ジュニア・カデ選手権のフルーレ個人で優勝。2012年、アジア選手権大会で3位入賞。

2012年ロンドンオリンピックではフルーレ個人、団体の日本代表に選ばれ、個人では初戦敗退したが、団体で準優勝し、銀メダルを獲得。

2013年、アジア選手権大会で個人、団体共に準優勝し、全日本大会でも準優勝。

2014年、アジア大会の団体戦において五連覇を狙う中国を接戦で下し金メダルを獲得。

 

【アスリートナビゲーター・田中大貴プロフィール】

兵庫県出身。1980年生まれ。 兵庫県立小野高校卒、慶應義塾大学環境情報学部卒。

大学時代は体育会野球部に所属し、東京六大学でプレーする。

2003年~フジテレビに入社し、アナウンサーとして勤務。 「EZ!TV」「とくダネ」「すぽると」「HERO’S」、スポーツ中継等を担当。 バンクーバー五輪、リオデジャネイロ五輪現地キャスター。

2018年~独立し、スポーツアンカー、フリーアナウンサーとして活動中。 番組MC、スポーツ実況、執筆連載などメディア出演の他にスポーツチーム・団体・企業とのビジネスコーディネーション、メディア制作、CSR活動イベントの企画・運営も積極的に取り組む。


 

ジュニアアスリート達からの三宅選手へのご質問

 

ジュニアアスリートの皆さん、子どもたちの皆さんから質問をたくさんもらっていますので、それに答えていただきたいと思います。

 

Q:やはりオリンピックは特別な大会ですか?

 

そうですね。基本的に世界選手権っていう、その競技で一番重要な決定戦っていうのが年に1回あるんですね。その上で4年に1度開催されるオリンピックというのはすごい特殊性があって、僕たちってやっぱりある程度のレベルになってくると、ポケモンとかもそうですけど、強くなりづらくなってくるんですよ。ずっと練習すれば練習するだけずーっと強くなるかといったらそうじゃなくて、ある程度レベルが高くなってくると、結構本当に同じぐらいになる。だから、オリンピックって割ともう出場する時にはみんなある程度同じ強さなんです。

じゃあ何が重要になってくるかと言うと、4年に1度というすごく長い時間の中で、そのたった1日にどれだけ準備ができるかという選手権なんです。例えば、ずっともう一生懸命、毎日毎日もう血を吐くぐらいの練習をして、足もガタガタになりながらやってって、その1日に合わせられないことなんてよくある話なんですよ。自分とずっと毎日毎日向き合っていって、最後の点に誰が一番強くなっているか。自分が気持ちいいように試合ができるかっていうのを競う試合なんです。

試合に入った時なんて、周りの準備が壮絶でメディアの注目も違いますから、普通に今もこうやってカメラ撮っていて皆さんが見ているなという感じは分かるんですが、やはりオリンピックのカメラっていうか、レンズの熱は違いますね。あのカメラが億単位で見ているんだって思うと、それだけ試合会場の中心っていうのはすごい熱いものが立ち込めているような感じがしますね。

 

Q:YouTubeのチャンネルでゲームをやっている姿を見て驚きました。ゲームがプレイに生かされること、フェンシングに生かされることはありますか?

 

あるんですよ。もちろん全然役に立たないゲームの方がいっぱいあるんですよ。だけど最近これはフェンシングにめちゃくちゃ使えるぞって思っているのが「大乱闘スマッシュブラザーズ」。キャラクターがいっぱい戦うんですけど、世界大会っていうのがあって、そのプレーを見る時があるんですよ。フェンシングもそうなんですけど、これって間合いの勝負なんですよ。

フェンシングっていうのはある程度感覚で間合いを取っているんです、だけど、スマッシュブラザーズで世界選手権に出ている人たちはフレームっていう本当に間合いのコマ数があるんですよ。あれはキャラクターがデータで処理されているので。だからこの間合いは何コマっていうのをもう正確に解析している人たちがいるんですよ。それを見ていると、うわーっ、すごいなって。本当に対人競技の中でも、体を使わない、目と指だけで動かしているけど、感覚っていうのが研ぎ澄まされるゲームなので、結構遠征の時とかに誰かひとり持っていくと、部屋にみんなで集まってやったりとかしますね。

 

Q:大舞台は緊張されますか?プレッシャーへの対処法があれば教えてください。

 

緊張しないほうがヤバいですよね。当然ですけど、我々が明日東大の入試を受けに行っても緊張しないじゃないですか。多分皆さんも準備していないから緊張しないと思うんですよ。けれども、準備していると絶対に緊張しちゃうんですよね。それって、緊張するっていうのは逆に自信があることの裏返しなんですよね。自信があるけど大丈夫かなという所で緊張って生まれるんです。どうでもいいことに緊張はできないんですよ。だから、長いフェンシング人生の中でたまに僕も緊張しない日っていうのはあるんですよ、試合に対して。そういう時は絶対に結果は出ないです。

試合の緊張感というのは絶対に練習では出てこないです。だから、あれを乗り越える練習ができる人っていうのはほぼいないんです。つまり緊張は絶対するし、そういう時はありがとうと思って。その時に思い出すのは、自分が練習しているってことが何だったのか。試合っていうのは練習以上のものは絶対出ないですから、やっぱり普段練習していることをそのまま出せるように工夫するっていうのが僕の中での解決策かなと思っています。

 

Q:好きな言葉はありますか?

 

僕は「出る杭は打たれる」。ことわざで言うと、ちょっと出ていると何だ何だと叩かれますけど、やっぱりそれだけ注目されているということが僕の中ではやはり「ありがとう」なんです。

 

出る杭になりたいと?

 

そうです。打たれたところで全然、そこで揃わなくてもいいし、何だったら出過ぎてしまえばもう打てないですからね。

それくらい自分の中でこうだと思ったことというのは貫いたほうがいいし、アスリートの方でもそれ以外でもそうなんですけど、いろんなものの才能ってその場面にいられるっていうことがまず才能なんですよね。なので、やっぱりそういう所で選ばれるように自分をアピールするっていうことはすごく大事なことかなと思います。

 

 

Q:海外での試合が多いと思いますが、コンディションを崩さないようにしたり、慣れない環境でも結果が出るように考えていることってありますか?

 

日本の選手はかなり時差との戦いといっても過言ではないです。でも幸いなことに人間って、東から西に行くのと、西から東に行くのだと、東から西のほうが時差ボケになりづらいんです。だから、日本からヨーロッパ側に行く時、我々は時差ボケになりづらいんですよ。しかしそれでもなってしまう。

その試合に参加するにあたっては極力長く現地にいたいし、あとは現地のリズムに早く慣れる。例えばご飯の時間、どうしても海外遠征に行くと眠くて食べたくないんですけど、試合のことを考えると絶対その場で食べておいたほうがいい。あとは、やっぱり試合中眠くなったらどうしようもないから、しっかり寝れるように日中は部屋にこもらないで外に行ったり。その国とかその試合会場のリズムに自分の体を慣らすっていうことはすごい大事だなと思います。

 

スランプとか不調の時にどうやって抜け出そうと考えていますか?

 

こればっかりはね、もうね、スランプだということを自覚するしかないですよね。スランプって何が問題かと言うと、結局自分が何が悪いのかが分かってないという状態なんですね。だから、逆にスランプだなっていうか、勝てなくなってしまったら、やっぱりまずスランプを疑うところからスタートしたほうが早い気がするんですよね。

おっ、これはスランプじゃないの?っていうふうにまず思ってしまえば、じゃあ、あとは問題なのは何が変わってきたのか、結構思っている以上に直さなきゃいけないことってすごく小さいことなので、だから、そこの小さいことを見つけるよりも、僕の場合はやはり今までやってきた基本というものをまたおさらいする。それがいいのかなと思います。

 

なるほど、一度自分の足元を見直す感じですね。

 

 

ジュニアアスリートへのアドバイス

 

ジュニアアスリート、あとはオリンピックを目指すようなトップアスリートを目指す子どもたちに対して、こういう運動を小中高生時代、小さい時にやっておけばいいよっていうアドバイスを皆さんにいただいているんですけれども。

 

そうですね、僕は運動オンチなので、水泳もできないし、人生で5km以上の距離も走ったことないんですよ。

 

えっ?

 

5km以上の距離を走ったことないです。インターバルトレーニングはしたことあるんですけど、それは延べ5kmじゃないし、続けて5キロ走ったことないんですよ。

でも、やっぱり対人競技っていうのは考え方がありまして、それこそ陸上の山縣君に一回聞いたことがあるんです。どういう気持ちで競技をやっているの?って聞いたら、「塗り絵」ですと。自分の中に描いた自分の理想形っていうものに対して縁取っていってそれではみ出さないように塗っていくっていう競技ですと。

彼は陸上で記録系の競技ですから「塗り絵」をしていくタイプなんですけど、我々対人競技っていうのはいかにその塗っている人を邪魔するのかみたいな競技なんです。

すごく意地が悪いような例えなんですけど、記録系と対人系でアスリートとしての心持ちっていうのは意外に違ったりする。どちらがすごいというわけではなく、それぞれ特性があるところを理解しなきゃいけない。

対人競技の練習の内容って、僕はカタログだと思っているんです。仮に技がたくさんできたとするじゃないですか。でも試合の中でその全てを出すというのはすごく難しいんです。だから自分が学校や練習場で学んでいる事はあくまでも技のカタログを作っているだけであって。

例えば棚やテーブルの種類がいっぱいある、それはすごいカタログとしてはいい事だけど、実際に家に住む時にテーブルは何個もいらない。だからカタログを基に、試合ではこの技って決めたらそれをどう配置するのか、試合の中でどうレイアウトするのかっていうのをしっかり組み立てるっていうのが対人競技の考え方かなと思って。

例を出してみると、僕が全国大会で「フレッシュ」という技をやったら相手がテンパっちゃったんです。これはどういう技かと言うと、ただ走り抜けていく。本来だとフェンシングって一直線の上で相手と向き合っているんですけど、それを相手の横を走り抜けていく。

 

横を走り抜けていくんですか!?

 

はい。フェンシングって走り抜けても違反じゃないんです。試合が一回止まって仕切り直すだけ。でも、その時それを知っているというだけでただやってみたんですよ。

そしたら見事その試合で大ハマりして、そのまま準優勝までいった。だから、やっぱりその時も技のカタログの中にはフレッシュが入っていてそれを取り出してみたら、これいいじゃんって。1試合の中であれもこれもやってみようじゃなくて、ブレずにきちんと相手に効いている技を使っていくといった事は対人競技の中では大事なことかなと思います。

 

相手と本当に近い距離の中で動いていくので、動体視力を養ったりとか瞬発力を養わなければいけないと思いますけど、その辺のトレーニングはどうされていましたか?

 

瞬発力とかは、広いものを見るときは、結構視野を広げるっていうのはすごい大事なんですけれども、僕、実は視力0.1以下なんですよ。今裸眼です。だから、実は皆さん見えていないんですよ、僕(笑)

 

えっ、ちょっと待ってください、今まで結構カメラ回してきて…!?

 

普段はメガネしているんですけど、実は僕、たぶんもしかしたら、もうメガネ掛けていないので、もしかしたら道で会っても分からないんですよ、みんなのこと。

 

さすがに試合の時は裸眼では…

 

裸眼です。

 

えっ!?

 

見えていないんです。全部を見ようとすると相手のフェイントに引っかかっちゃうんです。僕ってカウンタータイプのキャラクターなんです。だから攻撃する場合は相手の情報をいっぱい知っておきたいんですよ。選択肢を広げたいんです。だから、野球のバッターと一緒です。バッターってピッチャーが投げて飛んでくる球を見て、来た所にポンって合わせるだけじゃないですか。それと一緒で、ディフェンスタイプの僕は、相手の動きが全部が見えちゃうと邪魔で仕方ないんです。視力検査では一番大きいのも見えない。でも裸眼でフェンシングやってます。

 

ロンドンの時もそうでした?

 

ロンドンの時もそうですよ。全然何も見えないでやってます。

 

不安じゃない?

 

全然。必要な情報はもう全部入っているので。

 

それは、たまたま視力が落ちていってそのスタイルになった?

 

そうです。普段はメガネをかけているので別に何の不便もないですけれども「そうだな、試合でメガネをかけてても見え過ぎちゃうし、フェイントにかかっちゃうから、じゃあいいや!」ってメガネを外してコンタクトも入れずにやってみたのが最初のスタートです。

まあ周りに話すと、今みたいに「えっ!」とはなるんですよ。でも、何人かいますよ。広いフェンシング界の中でも。1人2人ぐらい同じこと言ってる人がいるというぐらい。別に剣が全部見えたからっていい事ないんですよ。大体どういう軌道で来るかなっていうのが予測できればいいので。逆に一番苦手なのは眩しい会場。試合会場が眩しいと本当に見たいものが見えなくなっちゃうし、距離感がずれちゃう。光で乱反射して見えなくなっちゃうと一番やりづらいです。

 

 

筋力的にはフェンシングの中で一番重要な筋力ってどこですか?

 

背中の筋肉、広背筋ですね。もちろんフェンシングの剣っていうのは腕で持つし、そうすると腕は太くなっていくんですけど、太くなったからといってそれはいい事じゃないんですよ。実は腕で操作しているんじゃなくて、もっと体の体幹部分から背中の筋肉、広背筋で操作しているんですよ。なので、腕の筋肉を鍛えるよりも背中の筋肉ですね。こういう、ジュニア世代の子たちは懸垂だったりとか、ものを引っ張るっていうのができていない事が多いんですよ。

今の子たちって実ははしご登れるけど降りれない子って結構多いんです。あと、ものを単純に引っ張る時に腕だけで引くんじゃなくて、背中の筋肉を使って引く。そういう体の使い方って日常でも使えるんです。

いろんなトレーニング機材を使うよりも先に、しっかりとまずものを押したり引いたり、走ったりといった型が出来るようになる。フェンシングの練習よりもたぶん先に効果が出るのはそういった基本動作の練習だと思うんですよ。

 

フェンシングって剣で突く感じなので、前に行く力が大事なのかなと。

 

突くっていうのは大事なんですけど、前に行くよりも、実はフェンシングって戻る動きもあるし、なおかつ引く力がないと体が起こせないんですよ。

フェンシングって引っ張る動作が多いんです。体をちゃんと引けるようになると、上体が立ってくるし、顎を引けばすごく視野が広がったり呼吸がしやすくなるんですよ。だから、ちゃんと背中の筋肉を鍛えたりとか、動かせるようになっておくっていうのは子ども時代からやっておくべきことじゃないのかなと思っています。

 

何でもいいから引っ張る練習ですか。

 

懸垂や背筋とか。とにかく何でもいいからしっかりと引っ張る練習ですね。

 

子どもたちに教える中で、フェンシングうまくなりたいって言いにくる子どもたちは多いと思いますけど、そういう時は何て答えてあげているんですか?

 

やはり先ほどからも言っている通り”キャラクター”なんですよ。フェンシングって「自分がこういうフェンシングをしていて、こういう強みがあるんです」というのをいち早く理解した人から強くなっていくんです。なので、自分がどういった事が得意なんだというのをまず考えてみて、得意な所をどんどん伸ばしていく。自分が得意なものというのは一番相手がやられて嫌なものなので、まずそこをしっかり出来るようになっていってから他のものを補っていく。それで全然十分いいと思うので、まず得意なものを見つけるということが大事かなと思います。

 

なるほど。今回は貴重なお話、どうもありがとうございました。

 

 

 

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