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【陸上】飯塚翔太選手(リオ五輪陸上男子4×100mリレー銀メダリスト・ミズノ所属)インタビュー【後編】
リオ五輪・陸上男子4×100mリレー銀メダリスト・飯塚翔太選手へのインタビュー後編です。
今回はジュニアアスリートの皆さんから飯塚選手にお寄せいただいた質問や、世界でもトップレベルの陸上のテクニックを語っていただきました。
Q:子どもの頃はどれくらい練習していましたか?
練習は1日に2時間していました。一番大変だったのは200m×10本、100m×10本ダッシュという練習です。あとは400mグラウンドを20週とかやっていました。とにかく走っていましたね。それからミニハードルや腿上げみたいなことをたくさんやりました。短い時間の中でたくさん走り回ることですね。それと、みんなで競争をしていました。50mや100m走を10本とか。負けない気持ちとかゴール手前で諦めずに勝つぞという気持ちが生まれるので大事だったと思います。
練習時間は長い方がいいですか?
短い方がいいです。試合の時間を考慮して、どのくらいで集中しないといけないか。陸上の場合は短い方がいいです。
Q:好きな食べ物はなんですか?身体を作るために嫌いな食べ物もたべていましたか?
僕は一番うなぎが好きなんです。あとは魚全般ですね。肉よりは魚派でした。野菜や梅干しが苦手だったんですけど、身体にいいことが分かっていたので我慢して食べていました。
よく質問で「肉を食べた方がいいですか?魚を食べた方がいいですか?」と聞かれることはあると思うんですけれど、実際はどうですか?
両方食べた方がいいですね。比率的には肉と魚で半々でもいいと思いますし、7:3とかでもいいので両方食べた方がいいと思います。僕自身の過去の経験だと、肉を食べている方が気持ちが前に行きますね。一時期肉抜きもしてみたんですけど、気持ちとかが変わってくるので、試合前には肉を食べて気持ちを上げたりしていました。
Q:どうやったら速く走れますか?
これは多い質問ですね。絶対に「これ」というのは無いんですけど、共通しているのは「目線」の位置なんですよ。自分が走っていく先を見る。例えば運動会だと前にゴールがあると思うんですけど、それをまっすぐ見る。ヨーイドンの時に、横にライバルがいたり、応援する人がいたりすると目線が横に行ってフラフラしてしまうんですが、これはよくない。親がゴールにいて応援してくれるのが理想的ですね。僕は試合でもお客さんの方は絶対に意識しないで前だけを見るようにしています。
Q:ベストタイムがなかなか出ない時はどうしますか?
そういう時は気持ちが落ちているので「ベストタイムが出せるんじゃないか」というマインドを作ることが大事なんです。速い人が走っている動画を見る。それは技術を見るんじゃなくて、速く走っている映像を見ることによって「自分も速く走れるかも」というマインドセットに切り替える事が大事なんです。そうして練習を続けているとだんだん良くなってきます。動きの部分では、自分の得意なところを伸ばすのが一番大事です。自分の動きで駄目なところを意識してしまいがちなんですが、その中でもマシなところを見るようにします。
なるほど。例えばスタートが苦手でスタートしてからの伸びが得意だとしたら、スタートに気持ちが行くよりもスタート後の伸びを意識することが大事なんですね。
そうです。まずは武器を作ること、そしてそれを伸ばすことが大事なので。僕は中盤から後半の伸びが得意なので、それを伸ばしつつ苦手なスタートも改善していく、というやり方で練習しています。
Q:シューズを選ぶ時のこだわりはありますか?
まずは実際に履いた時の感触ですね。履いた後にジャンプしたり歩いてみたりして、ピッタリかどうかを見ます。あとは自分の気持が上がるデザインかどうか。試合で履きたいと思えるかどうか。この2点を重視しています。
ミズノさんに飯塚翔太オリジナルのシューズを作ってもらう時に、どこをポイントにしていますか?
反発があって、足裏の感覚が繊細に感じられるか。そうするとソールを薄くする必要があるんですが、体重を考えるとある程度の厚みが必要になってきます。そこのバランスを見てもらっていますね。それからフィット感を大事にしています。靴の中でずれるとやはり速く走れないですね。
走る時に靴下は履いていますか?
これは人によりけりなんですが僕は履いて走っています。海外の選手はみんな履いていないですね。靴の中で指が動いたりして隙間ができるのが嫌で。靴下を履いていると、足が一つの丸になって、面にして足を付けるように走る
Q:レース前は緊張しますか?緊張する時はどうやって落ち着かせますか?
僕は緊張を受け入れます。緊張しないと走れないと思っているので、歓迎しています。それでも緊張しすぎてしまって抑えたい時は、トイレに行って鏡を見て「緊張している顔ってこんな風なんだ」と受け入れて開き直ります。逆に緊張していないとパフォーマンスが出ないんです。オリンピックの時もすごい緊張でしたが、鏡を見て「自分は今こんなに緊張しているんだな」と客観的に受け入れるようにしました。緊張はしない方がいいとか、落ち着こうとか思うと逆にどんどん緊張してしまうので、逆に受け入れた方がパフォーマンスが出るくらいに思った方がいいと思います。
Q:プロになって一番変化したことはなんですか?
一番変わったのはお客さんの事を考えるようになったということですね。見に来てくれるお客さんや応援してくれる方に向けて何かをしたい、エネルギーを発したいと考えるようになりました。
Q:プロの陸上選手になりたい子どもたちへのアドバイスはありますか?
一番は見て頂ける方に楽しんでもらえるよう頑張るということです。パフォーマンスを上げるのはもちろん大前提ですが、手を降ったり一緒に写真を取ったり、お客さんと触れ合うのを意識することですね。
Q:ゲームは好きですか?
ゲームは大好きです。ポケモンもやりますしオンラインゲームもやります。ゲームについては実験があって、オンラインで協力プレイすると気持ちが優しくなるらしいんですよ。例えば3人グループで協力して戦う時に、相手を助けよう、仲間の事を考えながらプレイするというメンタルは、人を思いやる気持ちが生まれて教育にもとてもいいらしいんです。ゲームは自分が主人公だと思うんですが、8割くらい失敗、ミスをするように作られているらしいんです。でもそれにめげずに頑張ってキャラを育てて、勝利の喜びを感じるために頑張るじゃないですか。それが現実にも影響が出るらしいんです。ゲームをすることは、自分を主人公としてめげずに頑張って磨いて成功して感謝するというルーティンが培われるらしいんです。
ゲームに関してのお話は今までで一番熱い語り口になっていますね(笑)
Q:スランプの対処法について教えて下さい。
まずはスランプに陥った時に、不調の振る舞いをしないこと。自分は不調だとかそういうメンタルにならないことです。結局自分が最後に活躍したい所は輝く場所じゃないですか。ということはそこの場所に意識をずっと入れないと行けなくなる。スランプに陥ると、例えば練習する場所も成功している人とは離れたくなるんです。そうすると自分が仮にスランプから戻れたとしても、戻りづらくなって微妙な距離感が生まれてしまうんです。なので、まず戻ってくる準備を整えるために意識は絶対に成功している人の側に寄せていく。弱い者同士、活躍していない人同士、怪我した人同士で集まるのは一番楽なんです。「俺たち大変だよね」って話をする。でもそうするとそこから抜け出せなくなるので、そういう振る舞いはしないということ。
もう一つはさっき言ったように、自分より成功している人のレースを見たりとか。人間の脳の性質的には、上手くいってる人を見ると自分も上手く出来るんじゃないかという性質があるので、そこを上手に利用する。あとは日常も上手く行かなくなるので。怪我をした次の日にガムを踏んじゃったり鳥のフンが落ちてきたりとか。そういう負の生活のサイクルを変えるために部屋の間取りを変えるとかものを置く場所を変える、カーテンの色を変えてみたりする。目線の先にあるものを変えてみるんです。起きた瞬間にいつもと違うなと感じるようにして負から脱出する。自分の中の思いを変えるということ。
スランプに陥った時はとにかく逃げずに、最後に自分が一番どこにいたいのかを考えることが重要だと思います。
速くなるテクニック
ここからは、世界トップクラスの陸上選手のテクニックを分かりやすく教えていただければと思います。まず、中高生が陸上で速く走るためにこういうテクニックがあると良いということはありますか?
まず肩が上がっている状態ではなく、下げた状態で腕を振るのが大事ですね。足をついた時に肩が上がっていると、下半身と上半身が離れている状態になるんです。腕を下げることによってそれがくっついた状態になる。そうすると足が地面に付いた時に力がもらいやすくなるので、ちゃんと肩を下げて首が長い状態で走ることが大事です。意外とこういうフォームになっている人は多いです。
腕の振り方にはテクニックはありますか?
手はパーでもグーでもどちらでもいいですが、握りすぎると力んでしまうので腕が速く振れなくなります。グーにしてもいいので手の力は抜いて腕を振ってください。
陸上って歩くときから始まってるのかなと思うんです。
そうですね。歩くこと、まっすぐ歩けるかというのはとても重要です。人って目をつぶるとまっすぐ歩けないんですよ。100mを走る時にまっすぐ進めずくねくね走ってしまうと、100m走るつもりが101mの距離を走ることになってしまうんです。それを調整するためにはバランストレーニングなど、まっすぐ歩く練習をすることは大事ですね。
小中学生の時期に必要な筋肉で大事なのはどの部分ですか?
まず身体の中心ですね。お尻の筋肉と体幹の筋肉、肩甲骨。ここが一番大きな力を出して稼働して走るのですごく大事です。上半身と下半身の強さのバランスも大事です。どちらか片方だけ鍛えてしまうと、身体は弱い方の筋肉に合わせてしまうんです。なのでバランス良くトレーニングをすることがとても大事です。
それと、さっき走る時に手を握ってはいけないと言いましたが、筋トレの時にもベンチプレスや懸垂の時に握る習慣をなくす。僕も懸垂をやる時は親指と小指は外して引っ掛けるようにしたり、ダンベルスクワットの時も握らずに手の上に乗せるような感じで行っています。力を発揮する時に握る習慣を付けると、走る時にどうしても力んでしまうので僕は絶対に握らないようにしています。
スタートのテクニック
スタートをする時に絶対に出遅れたくないと思うんですけど、テクニックはありますか?
「よーい」の時に自分の足が着く場所を見る。そこに出来るだけ足を速く着けるように意識することが大事です。遅い人だと、よーいどんの時に身体が浮いてしまうんです。速い人は身体が浮かない。これを意識するためには、地面に突っ込んでいくぐらいの意識を持つと、ちょうど良いくらいの角度でスタートできるんですよ。中々難しいんですけどこれを強めに意識することです。
レース序盤
身体全体を使って前に進むんですが、前に前に行かないといけないので、自分の少し前方を見て、とにかくそこに向かって少しでも速く行けるよう意識をする。「ヨーイ」の時は下を見ますが、「ドン」からは常に前を見ます。そして絶対に横は見ずに足は真っすぐ出す。
足の運び方のコツはありますか?
「足が流れる」という言い方があるんですが、足を付いて、後ろに引っ掛けるような動きをしてしまうと遅く鳴ってしまいます。足は着いたらすぐに前に持ってくること。斜め上に膝を上げるイメージを意識します。必要以上に着いた足を押し込むと遅く鳴ってしまいます。短い時間で跳ねて走っていく。右左の足でのジャンプの連続なんです。
レース中盤
出来る限りリラックスします。肩の力を抜いてスピードを維持するイメージです。人間は(100m走では)7秒以上のスピードは出ないんです。スタート時には身体を大きく動かして、中盤からはだんだんモーションを小さくする。ずっと大きな動きをしていると、疲れて遅くなってしまう人もいるので、僕は途中から動きを小さくすることで減速を抑えるやり方で走っています。
家の中でこういうトレーニングをすると陸上に有効なものはありますか?
片足バランスの練習ですね。目をつぶって片足で立つ練習です。普通に立つのはかんたんなんですけど目をつぶるとすごく大変なんです。これは30秒くらいずつやります。自分が走っている間の時間でもいいですね。潜在的に無意識で取れるバランスというのは、目をつぶった状態じゃないとわからないんです。人間は目でバランスや方向感覚を調整するので、つぶった瞬間に一気にくらくらする。無意識のバランス感覚を調整するのは子どもの頃からやっておいた方がいい。
これは意識しないでやるのが一番いいんです。バランストレーニングをやるぞ、と意識をしてしまうとバランスだけを意識してしまう。例えば洗濯物を干しながらいつの間にかバランスを取るといった風に、いつの間にかトレーニングをしているような状態が一番理想ですね。
成長期の段階での怪我は怖いと思うんですが、予防法を教えて下さい。
筋肉の柔らかい状態を保つこと。朝起きた時やフロアがりにストレッチをすることですね。あとはバランスの良い食事を取ること。この2つが一番怪我の予防になると思います。
ただパフォーマンスの面で考えると難しいんですよ。短距離って足の筋肉が柔らかすぎると足が地面に着いた時にクッションのようになってしまうのでスピードが上がらなくなってしまう。でも走る時に怪我をすることが多いのは太もも裏のハムストリングスだったりするのでここはストレッチをしないといけない。
ストレッチは練習の前にはいつもやっていますか?
朝にやって、練習の前は伸ばしすぎると筋肉が動いてこないので、練習後に20秒ぐらい行います。夜も同じくらいやりますね。
練習メニューの考え方のコツはありますか?
何m走るかとか、そういうのはこだわらないで、総距離で考えています。今日は2000m走るぞと決めたら、何m走を何本やるか考えたりしますね。自分は3周きつい練習をしたら残りの1周は50%の力で走るようにしています。3周全力で走って1周休むというイメージです。
試合前は意外とスピードを上げないですね。全力疾走をした次の日かその次の日ぐらいって、調子が落ちるんですよ。試合前は速く走る感覚が欲しいので全力で走りたくなるんですけど、それがピークになってしまうんですよ。なので、全力で走るのは本番に備えてためておいて、練習は腹八分で終わりにするというのが大事なコツですね。