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2021.04.16

【十種競技】右代啓祐選手 (国士舘クラブ所属)インタビュー【前編】

【十種競技】右代啓祐選手 (国士舘クラブ所属)インタビュー【前編】

陸上競技一家に生まれ、幼い頃の夢はスポーツ選手になること。

身長196cmという恵まれた体格ゆえに怪我に苦しむこともありました。

そんな時期を乗り越え、たどり着いた日本選手権6連覇、そして2度のオリンピック出場。

今日は、子どもの頃からの夢を叶えて活躍する彼のジュニア時代に迫ります。

 
【右代啓祐選手プロフィール】

1986年生まれ。196cm、95kg。北海道出身。十種競技日本記録保持者。2012年ロンドン五輪、2016年リオ五輪出場。

大学から十種競技に取り組み、4年生時(2010年)に日本選手権初制覇。翌2011年、日本人初の8000点オーバーという記録を打ち立て、18年ぶりに日本記録を更新した。

日本人離れした体格で、十種競技の第一人者として10年にわたり世界の舞台で戦い続けているトップアスリート。

2014年、アジア大会の団体戦において五連覇を狙う中国を接戦で下し金メダルを獲得。

 

【アスリートナビゲーター・田中大貴プロフィール】

兵庫県出身。1980年生まれ。 兵庫県立小野高校卒、慶應義塾大学環境情報学部卒。

大学時代は体育会野球部に所属し、東京六大学でプレーする。

2003年~フジテレビに入社し、アナウンサーとして勤務。 「EZ!TV」「とくダネ」「すぽると」「HERO’S」、スポーツ中継等を担当。 バンクーバー五輪、リオデジャネイロ五輪現地キャスター。

2018年~独立し、スポーツアンカー、フリーアナウンサーとして活動中。 番組MC、スポーツ実況、執筆連載などメディア出演の他にスポーツチーム・団体・企業とのビジネスコーディネーション、メディア制作、CSR活動イベントの企画・運営も積極的に取り組む。

 

 

幼少期から体格に恵まれながら、成長痛で活躍できなかった中学生時代

右代選手は幼少期の話についてこれまでいろいろインタビューされてきたと思いますけども、覚えはあります?

 

高校とかそのぐらいまではあるんですけど、幼少期ってあんまりないんですよね。

 

陸上を始めた頃の話はしていても、もっと前の幼稚園、小学校の話って意外としていないですよね?

 

そうですね。あんまり思い出すこともないぐらいですからね。

 

そうですか。ではちょっと今日は思い出していただければと思います。まず、幼稚園、小学校の時から体は大きかったですか?現在196cm今ありますけど。

 

そうですね。やっぱり小さい頃から大きくて、背の順だったら一番後ろでしたし、座席も必ず後ろの、席替えしても一番後ろみたいなところで。一番前の人って腰に手を当ててるじゃないですか、あれやりたかったです(笑)

 

(笑)なるほど。身長が急激に伸びたというのはいつぐらいですか?

 

そうですね。中学1年生から2年生にかけて15cm、1年間で。もう、足も本当に何カ月かに1回靴を替えないとキツキツになっちゃっていましたね。結構親には迷惑かけたと思います。

 

お父さんお母さんも大きかったですか?

 

そうですね。父が175cmで、母が164cmとかそのぐらいでした。一般的には大きい方なんですけど、自分がここまで身長が大きくなるとは家族のみんな思っていなかったので。兄弟も弟が187cm、妹が174cmあります。

 

やっぱりそれは家庭生活とか家庭教育だとか、あとは食生活がかなり影響していると思うんですけど、その辺り思い当たる節はありますか?

 

そうですね。やっぱり小さい頃から食事は残すなという。父親が結構厳しくて、幼稚園時代からご飯を残したらゲンコツが飛んでくるような、そんな厳しい家庭に育っていて。今思えば食べ物を残さないということはすごい大事だなと思っていましたけど、当時は親にゲンコツされるのが嫌で。(笑)残さず食べていたというのはあったんですけど。小学生の時、母親が毎朝300mLの牛乳を飲ませてくるんですよね。

 

300mLって、結構な諒ですよね。500mLのペットボトルの半分以上ですからね。

 

パンはペロッて食べれるんですけど、牛乳はグビグビとはなかなかいけなくて、大変な思いをしたのもあるんですけど。毎朝飲まされていましたし、給食でも飲んでいました。、1日1Lぐらいは飲んでいたんじゃないかなというぐらい。給食でも出ますから。家に帰っても牛乳。水より牛乳を飲んでいましたし。

それと母親も食事に関しては、料理が結構好きだというのもあって、主菜・副菜・おかずもたくさんいっぱいで、本当にお腹いっぱい、バリエーションも豊富で育てられていたので、やっぱりそういった食のバランス・残さないこと・栄養のバランスも含めて本当に身体を作る上で大事な要素が取れていたというのは親の教育だと感じますね。

 

違う競技のアスリートとも接してみて、食事の話を聞くと、ちゃんと幼少期から食べてきている、量も食べている、バランスも考えてきているアスリートは体が強いですか?体も大きいですか?

 

そうですね。体の大きさはちょっと分からないですけど、偏食する選手って結構トップアスリートでもいるんですが、やっぱり食にこだわっている人たちが長く競技を続けられている印象はありますね。

その場では好きなものを食べるのはいいかもしれないですけど、やっぱりどこかで歪みがやってきますから。小さい頃、幼少期のバランスいい食事というのを目で見て、どんなものが自分の体に入っているのかということを子どもの頃から理解していると、大人になっても食事を選んだ時にバランスのいい食事ができるようになると思うんですね。なので、幼少期の食事というのは、食の自立をするためでも物凄く大事だなというのは感じますね。

 

 

小さい時から走るのが速くて運動は得意だったんですか?

 

実は小さい頃はあんまり…、スポーツは好きで走るのも好きだったんですけど、なかなか1番になれない経験もあって、あまりいい思い出がなかったですね。中学生の時に成長痛になったりとか、そういった経験を経て今があるんですけど、幼少期の食事、そして体の状態をサポートするのは親の役割だと思うので、そういったところでの変化というのにいち早く気付いてあげることができるというのはすごく大事かなと思いますね。

 

中学校の時に成長痛で練習ができなかった、結果が出なかったというのは精神的にきつかったなと思うんですけど、その辺はどういうふうに乗り越えてました?

 

やっぱり周りの仲間だったり、中学生時代の陸上部の仲間に「おまえ身長高いだけじゃん」とか「何もできないじゃん」みたいなことを言われて、いじめではないですけど、冷たい一言を言われたりすると、気持ちも心も落ち込んだというのは、中学生時代にあったんです。

でも、親に相談したりだとか、学校の先生に相談したりとか、それこそ成長痛で身体が痛いということは、体には危険信号が出ているサインだよというのを教えてくれた先生もいたので、そういったところで人に相談することで安心をしたりだとか、大好きなスポーツがやりたいけど痛くてできないというのが苦しかったので、高校に進学したらきっと身長も止まるだろうし、大好きな陸上が思いきりできるから、高校に入ったらもう命がけでトレーニングしよう、練習頑張ろうという気持ちはありましたね。

 

やっぱり高校時代は命がけでやっていたんですか。

 

そうですね。高校時代自分の中で1つ決めていたものがあって、毎朝電車、始発の電車に乗るんですけども、朝5時に起きて。学校には7時ぐらいには着いてて、誰もいない体育館で、高校3年生になってやっとできたんですけど、朝の1時間で腹筋1,000回、腕立て200~300で、背筋も300回とか、ベンチプレスとか、いろいろやって、それを全部やってちょうど1時間ぐらいなんですね。1年生の春から高3の冬まで毎日それは続けようと思って。

別に直接的に腹筋を1,000回したら強くなるよということじゃないんですけど、自分が目指しているところが全国大会で。それこそ中学時代の時は全国大会にも出れずに北海道の大会にギリギリ出れるような大した選手じゃなかった自分が、全国大会を目指すという過程には努力が必要だと思って。

成長痛で痛いところもあったし、みんなと練習量も離されている中での高校入学だったので、誰よりもプラスを重ねようという気持ちがあって、3年間強い意思を持って、命がけで継続して頑張りましたね。

 

すごいですね!

 

始発からの朝練、コソ練習ですね。結構きつかったけど、変わっていく自分が1年1年試合として成果に出ていました。高校2年生で初めてインターハイに出場して全国大会に自分の努力で出れるようになったんだというところから、今度は全国大会の表彰台にのぼりたいという気持ちに変わって、そしたらまた頑張れるようになるんですよね。夢が叶うとまた新しい夢が出てきて、どんどん自分の夢を叶えていって今の自分があるというのは思います。

 

毎日続けていく事が、大きな結果を成し遂げるということは十分あるということが分かったわけですね、高校時代にね。

 

そうですね。なので、やっぱり小中学生、それこそ成長痛を抱えている中学生とか、そういった子たちには焦らないでほしい。無理して頑張るというのは、やっぱり体のどこかしら痛いということは危険信号が体に出ているというサインだと思うので、そういった時に先ほど言ったように家族に相談したり、友達に相談したり、コーチに相談したり、先生に相談したりというのを恥ずかしがらずにやってもらって。

みんなが練習をやっているのに置いていかれるって思うんじゃなくて、自分の体と向き合うきっかけを探しにいくというのはすごく大事だと思いますし、その先で痛くなくなった時に努力するタイミングを見つけて、いろんな挑戦をしてもらいたいなという風に思っています。

 

素敵な言葉をいただきまして、どうもありがとうございました。

 

 

皇治選手がジュニア時代に実践していたトレーニング

 

ここまで幼少期のお話をたくさん伺いましたけれども、遅咲きでもあきらめずに、中学校の時の反省点を生かして、高校ではみんながトレーニングしていない時間にトレーニングを行った、それが今に繋がっているわけですね。

今回は練習のことについて具体的にお話を伺っていきたいと思いますけれども、よく小さい時に今の自分の成績に繋がる練習ではこういう練習をやっていたから今に繋がっているんじゃないかと思うことってありますか?

 

そうですね。今、十種競技をやっていて、世間の人たちには何でもできるんだというイメージを持たれがちなんですけども、幼少期はあんまり1番を獲ったことがなくて。それこそ小学生の徒競走で1番をあまり獲ったことがないし、マラソン大会も6年生の時、5年生の速い子に負けて4番だったとか、あまり1位を獲ったことのない少年だったんですね。ただ、悔しい思いをいっぱい積んでいるからかもしれないですけど、コソ練はしていたんですよ。

 

コソ練ですか。

 

はい。自分の中で今思い出してパッと出てくるのが、小学生時代サッカーが結構流行ってみんなでやっていて。リフティングを何回できるかみたいなので、みんなの前で僕がやった時に5回ぐらいしかできなかったんです。当然サッカーをやっている友達とか20回30回とか平気でやるんですけど、その時はすごく恥ずかしかったんですね。それで家に帰ってもう毎日サッカーボール蹴りまくって、1人で50回ぐらいできるようになって、ある日またサッカーする仲間で集まった時に、リフティングの勝負しようという話になって。その時に僕は30~40回やってその仲間の中で1番を獲ったんですね。その時にすごい周りの人たちが祝福をしてくれたというか、尊敬の目で見られたんです。それがすごい気持ちよくて。

できないことができるようになるまでの過程ってすごく大変だけど、それができるようになった時に周りが「おまえやっぱすごいな!」みたいな、そういう目で見てくれるのがたまらなく嬉しくて。それは小学3、4年の時だと思うんですけど、それ以来出来ないものをコツコツできるようにしていくという、誰かに褒められたいとか、そういった想いで日が暮れるまでできない事をできるようになるコソ練をするようになりましたね。

 

やはり成功体験の積み重ねって非常に重要ですか?

 

そうですね。それが自然にできていたというのと、やっぱり僕自身は人に褒められることが自分を肯定する瞬間だったんじゃないかなというふうに当時は思っていたので。とにかく褒められるために頑張るという(笑)

 

いいですね。とにかく褒められるために頑張る。それは間違いなく大きな原動力になりますよね。

 

そうですね。やっぱり子どもは親に褒められると素直に喜ぶし、仲間に褒められても、人に褒められるということは、大人でもそうですけど嬉しいんですよね。それで心が豊かになってまた次のスタートする原動力にもなるし、その連続が成長に繋がるかなというのは今でも感じますね。

 

右代選手は「十種競技という競技ってどんな競技ですか?」って子どもたちに聞かれたら何て答えてます?

 

そうですね。難しいですね。できないものをできるようになるためにスーパーマンになるためのスポーツだよって。やはり人間、得意不得意というのは必ずあって、全部何でも得意な人間はいないと思うんですよ。スポーツでも100mは得意だけど、幅跳びは苦手とか、陸上の中ではそういう得意不得意はあると思うんですけど、それを苦手と思わないでどれだけ好きになれるか。苦手って字がもう嫌じゃないですか、苦しいって書く。でも、得意になるためにその苦いという文字を捨てて好きになるような働きかけというか、それこそ僕は走ることが苦手なんですよね。

 

そうなんですか!

 

子どもたちには”苦手”というより”伸びしろがある”って言うんですけど。やっぱり走っている時が一番周りに置いていかれたりとかするのでストレスですし、苦しいです。でもそこから目を背けることって世界を目指す上で絶対にしちゃいけないことなので。

それこそ自分は中学生に走り方を聞く時もあるし、同じトレーニングをやっている仲間に聞く時もあるし、いろんな人にアドバイスをもらって自分の走りというのを見つけていくという作業。自分の持っている記録は中学生のトップレベルよりも遅い記録なんですよ。11秒1という数字は。

なので、やっぱりいろんな人からアドバイスを聞いて伸びしろをつくってあげないといけない。得意なものを伸ばすのは簡単だと思うんですよ、好きだから。でも、苦手なものを伸ばすのはそれを好きにならないと駄目なので、まずは好きになるための努力をしていく。それこそさっき話したような、小学生の時に感じた出来なかった事が出来るようになった時の喜びですよね。僕はこの歳でも褒められたいし、頑張ったなって言われたいので(笑)そういうものを目指して、苦手な走る事に取り組んでいるところですね。

 

”十種競技”なので、走る以外にも跳ぶ、投げる、いろいろあると思いますけど、十種類ということは単純に十倍の練習時間が必要なのかなと思うんですが、その辺はどういうふうに考えていますか?

 

そうですね。本当に単純計算で十倍なので、めちゃめちゃ練習をやっているのではと思われがちですね。自分の中で、今までは6時間とか平気で練習をやれていた時期もあったんですけど、やっぱり上に上がれば上がるほどパフォーマンスが高くなってくるので、筋肉だったり、関節だったり、いろんなところに疲労が溜まって怪我のリスクというのが高まってくる。だからなるべく1回の練習は3時間以内に終わらせるように意識はしていますね。

1週間の中で5日間練習するんですけど、その中で1日の練習を2種目ずつやっていくと、単純計算で10種目練習ができるので、1週間を1つのサイクルとしてまんべんなくなくトレーニングを積んでいく。

 

なるほど、1日とは考えないんですね。1週間と考える?

 

1週間です。なので、今日は走る日と跳ぶ日とか、そういうのを分けてやるようにはしているんですけど。その1週間が終わったあとに、どんな成果が出たかなっていうのを振り返って、次の週の練習メニューを考えたりとか、そういったことはするようにしてますね。

 

10種目ある中で全部に共通している動きとか、全ての競技に通じている大事な要素・共通項はありますか?

 

力のオン・オフというか、入れることと、抜くこと。ずっと力を入れ続けると体は疲れてしまうので、必要な場面で力を発揮をしたりとか持続させるためにはオン・オフというのは必要かなと。それが体をコントロールするということに繋がると思うので、そういったトレーニングは日々、走ったり・投げたり・跳んだり以外のウエイトトレーニングとか、ほかのアジリティのトレーニングをやったりとか、普段のトレーニングからそういったオン・オフは意識していますね。

 

日本で連覇を続けたりとか、あとはアジアでトップになるとか、オリンピックに出るとか、いろんな結果を残す中で精神的に大事なものってどんなことですか?

 

明確な目標と行動というのがものすごい大事かなと思っています。とにかく前に突っ走って行動することよりも、自分の叶えたい夢が1つあるとしたら、自分の場合はオリンピックでメダルを獲りたいっていう夢を叶えるためにはどういった目標を達成していかなければならないか、という項目を何個も出していくんですね。その中で苦手なものだったり得意なものみたいなものを書き出す。そこからそれをクリアにしていくためにはどういった行動を取っていけばいいのかというのを紙に書くんです。

 

紙に。文字に起こすんですか?

 

紙に書きます。自分のイメージしたことって基本的に忘れちゃうし、夢は夢のままで終わっちゃうと思うんです。でも夢を紙に書き出すと、自ずとやるべきことっていうのが見えてきたりとかするので、僕は結構そういったノートに殴り書きみたいな感じで、自分の頭を整理したい時はそういった行動をしますね。

夢を見ることって誰でもできるんですよ。ああなりたい、こうなりたいって。じゃあ、どうやったらそれに近付けるのか、なれるのかっていった時に、やっぱり行動が必要で。自分1人の力ではその夢って基本的には叶えることってできないんですよね。そのためにはいろんな人にアドバイスを聞いたりとか、教えてもらいに行って、自分で足を運ぶことで気付くことっていっぱいあると思うんですよね。

それこそ夢が見つからない人とか、小中学生なんかだとまだ将来の夢分かりませんみたいな子たちも多いですしね。いろんな所で講演した時に、夢がない人?って言ったら半分ぐらい手が挙がったりとかもするので。

 

そうなんですね。

 

夢を見つけるひとつの手段として子どもたちによく言うのが、「散歩してみな」って言うんです。散歩って一歩家の外に出るということ、行動するということだと思うんですよ。ゆっくり歩いて何も考えないで普段のルートじゃないルートを歩いてたりすると、こんなところにこういうお店があったんだとか、きれいな花だなとか、そういうところでいろんな興味が湧いたりとか、そういった行動の中から自分のやりたいこととか興味というのは見つかってくるんじゃないかなという風に思うので。

大人もそういう行動は必要だと思うんですけど、そういう子どもたちに僕は何か始める時とか、何か迷っている時は、そういう一歩踏み出すという意味を込めて「散歩」というのを勧めていますね。

 

いいですね!「明確な」行動力、言動というのが重要なキーワードですよね。ありがとうございます。

 

 

<インタビュー後編へ続く>

 

 

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