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【野球】川﨑宗則選手(元メジャーリーグ・元福岡ソフトバンクホークス)インタビュー【後編】
元メジャーリーグ・元ソフトバンクホークス川﨑宗則選手へのインタビュー後編です。
後編ではジュニアアスリートの皆さんから川﨑選手にお寄せいただいた質問や、子どもたちにも実践できる野球のテクニックについてお話を伺っています。
Q:チームの仲を良くするために心がけていることはなんですか?
野球って9人でやるスポーツなんで、この9人が自分だと思わないと楽しめない。僕のヒットをナイスバッティングと言ってくれる子がいたら、別の子のプレイを褒めてあげること。みんなでみんなのプレイを褒めあうと、チームの雰囲気がすごく良くなる。そうすると、良いプレイをしようというモチベーションにもつながるんです。
Q:憧れの選手はイチロー選手と聞いていますが、憧れの選手と一緒にプレーするってどんな気持ちですか?
嬉しいし緊張しますね。2006年のWBCで初めてイチロー選手とプレーさせてもらいました。僕は中学校の時に初めてイチロー選手を見た時、身体にイナズマが走りました。彼の影響でバッターも右打ちから左に変えたんです。
当時の僕は西武の清原さんや秋山さん、巨人の原さんを見て「こんなに体格が必要だとしたらプロ野球選手になるのは厳しいかもなあ」と思っていた時、イチローさんを見て本当に衝撃を受けたんです。左打ちに変えた時に自宅にネットを買って、毎日ティーバッティングを練習していました。
子どもたちにイチローさんのスゴさを教えてあげるとしたら、どんな風に教えますか?
今は例えば大谷翔平選手が人気だと思うんですが、彼は190cmの体格で160kmを投げるしバッティングも距離がある。でもイチローさんは君たちのお父さんとそんなに変わらない体格だけど、どんなメジャーリーガーにも勝ってしまう。イチローさんは「もしかしたら自分もプロ野球選手になれるかもしれない」と思わせてくれる、夢を見させてくれる本当のスーパースターなんです。
Q:プレッシャーに勝つためにしていることはありますか?
プレッシャー、緊張はすごくします。オープン戦でも緊張するし、日本シリーズでもWBCでも、全ての試合で緊張します。それは硬式ボールが頭に当たるかもしれないし、野球は常にケガの危険があるスポーツなんです。もしかしたら死ぬかもしれないということを覚悟しなければならないと思っています。その緊張感を大事にしています。その中でいいプレーが出来るように、呼吸やリラックスをすることで身体を落ち着かせる。試合前はよく芝生の外野で寝たり、内野の土で膝をわざと汚したりする。これは緊張をほぐすためのルーティンでやっています。
僕がイチローさんとシアトルマリナーズで一緒にプレーすることになった時、東京ドームで開幕戦があったんです。それが僕のメジャーリーガーとしてのデビュー戦だったんですが、相手のチームの体格を見て恐怖を感じてしまって、ベンチに入った瞬間にすごい吐き気がしたんですよ。そこにイチローさんがやってきて「ムネ、緊張しているか」と聞いてきたんです。「先輩、緊張どころか吐きそうです」って言ったら「俺も緊張している」って言ったんですよ。その瞬間に「2300本も打ってる人が緊張する…?なら俺の緊張は悪く無いんだ!」と思って落ち着いてきたんです。
Q:川崎選手は、身体を大きくするために努力していることはありますか?
ご飯を食べること。栄養を取ることはすごく大事です。昔は「牛乳を飲めば大きくなるよ」と言われてたんですが、牛乳があまり好きじゃなかったんです。僕は小学校の時が149、中学校に上がって160cm無いくらい。中学3年で161cmとかでいつも伸ばしたいなあと思っていました。お父さんは173cmくらいだけどお母さんもお兄ちゃんも小さくて。
お袋に米を炊く時にカルシウムを摂れる粉みたいなものを入れてもらったりね。ご飯に関しては、やっぱり親御さんが協力してあげないといけないのかなと思います。子供だけだとどうしてもカップラーメンとかに行っちゃうもんね。
今の身長は何cmですか?
179とか180くらいですね。実際どうして伸びたかははっきりわからないけど、ここまで伸ばすのには結構ご飯を食べたり、色々やりましたね。
特に朝食のたんぱく質が大事なんですよね。夜は食べられても、朝って子どもたちは食べたがらないんです。そういう時にちょっとしたテクニックで朝にたんぱく質が摂れたりすると、成長にはかなりいい影響があると思うんです。
子どもたちにも実践できる、野球のテクニック
子どもたちにも出来るテクニックとか、技術的な部分以外でのフィジカルトレーニング方法を教えていただければと思います。
・速く走る方法について
速く走る方法って、子どもたちはすごく興味があるんですよね。
速く走るためには、実は幼少時代にどれだけ足を速く動かす練習ができるかなんです。
みんながやりがちなランニング。ゆっくり長い距離を走るのは、ゆっくり走るための筋肉は付きますが、子供の時、特に5~12歳くらいの間はスコアは気にする必要はなくて。
むしろこの時期に運動神経が決まるので、どれだけ速い動きをさせられるかが重要だと思います。
どういう動きが重要なんですか?
短い距離を走ること。あと走る時のバランスと言うか。僕が昔からやっているのは、走る時に足が地面に着く時間をなるべく短くする練習。それと、足が地面に着いた時の反動をもらう練習です。高い所から落ちると、地面から衝撃が返ってきますよね。その反発を利用して落ちた瞬間に走り出すという練習です。そして最後にこれが一番大事なんですが、極力腕を振るようにする。イチロー選手は打った後の走り方を見ていると、まるで鳥が羽ばたくように肩甲骨を使って全力で振っているんです。この腕振りは絶対に意識して練習した方がいい。
ただ、野球でグラブを付けて走る時は、腕を振りすぎると顔がブレちゃうんだよね。グラブを持っている時は目線がブレないように走れるようになれば言うことなしです。最高。守備でグラブを付けている時の小さい動きで腕振りと、ランナーとして走る時の大きい腕振りの2つを野球をしている子どもたちには練習してほしいと思います。
まず肩が上がっている状態ではなく、下げた状態で腕を振るのが大事ですね。足をついた時に肩が上がっていると、下半身と上半身が離れている状態になるんです。腕を下げることによってそれがくっついた状態になる。そうすると足が地面に付いた時に力がもらいやすくなるので、ちゃんと肩を下げて首が長い状態で走ることが大事です。意外とこういうフォームになっている人は多いです。
・スローイングについて
スローイングでこういう練習がいいというのはありますか?
キャッチボールは大事なんだけど、みんな何のためにやるのか分かってないのね。何のためにキャッチボールを最初にやるかというと、あれはウォーミングアップなんです。一番動かす肩の関節をあたためてケガをしないためにやるんですね。そして試合になったら全力で投げる。
子どもの時に一番怖いのは、キャッチボール大会になってしまってキャッチボールで強く投げることに意識が行ってしまうこと。いい球を投げるのが目的ではなくて、肩のコンディションを確認することなんです。
だから、考え方を変えて、キャッチボールは肩をあたためるためにやろうと考えること。キャッチボールの目的をそう意識することで、自分でも肩のコンディションの不調に意識が向くようになるんです。自分の肩にとって気持ちいい感じで投げると、自然と良い位置に投げられるようになってきます。
・語学について
海外に挑戦する上で、語学は重要ですか?
よく使う言葉を理解することだよね。例えば学校で勉強していることって、実際の英会話では案外使わないものもある。自分にとって実際に一番必要な言葉はなんなのかを早く見つけるのが重要だよね。
自分の環境の中でよく使う言葉から覚えていくことが重要なんですね。
もちろん勉強していくことも大事よ。でも実際には使わないものも多いのよ。言ってみれば方言みたいな感じで使う。例えば関西弁で「なんでやねん」って相手が毎回毎回言ってるとこっちも「なんでやねん」って自然に出てくるようになる。方言を覚えるような気持ちで行けばいいんですよ。僕にとっては語学を学ぶのは他の言語を覚えるというより、方言を覚えるようなイメージなんです。
日本以外でトップアスリートになろうと思ったら語学力はやっぱり必要ですよね。
語学が分かると楽しいです。言葉ってすごくリラックスできるの。人間って、すごく飽きやすい生き物なんだよ。だから新しい語学をどんどん使うことで、自分を飽きさせないようにするの。いつも同じことばかりやってると、腐ってしまうの。そういう自分を飽きさせないようにしてくれるんです。
では、川崎宗則には今後ヨーロッパも制していただいて…
野球をする限りは世界各国を回っていろんな考え方を学びたいですね。
日本の野球は素晴らしい。でも世界のいろんな考え方を知れば、それをミックスさせて新しいプレーが生まれるかもしれない。
将棋の藤井聡太さんが17歳であんなにすごいのって、セオリーに無いことをするからでしょう?セオリーが固まってしまうとダメだよね、壊してこそセオリー、セオリーが無いことがセオリー。こういう子たちが出てきてくれると最高だなって思います。